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サムスンSDS AX戦略とは?2026年に向けたAI転換の全貌をエンジニア視点で解説
みなさん、こんにちは。スワローインキュベート代表の大野です。
今回はサムスンSDS(삼성SDS)が推進する「AX(AI Transformation)戦略」について書いていきます。
結論から言うと、サムスンSDSのAX戦略は「自社グループの業務効率化で実績を積み、それを外販サービスとして展開する」という二段構えのアプローチです。2026年を一つの区切りとして、エンタープライズAI市場でのポジション確立を狙っています。
韓国の経済紙やテック系メディア(디지털데일리、ZDNet Korea など)を読んでいると、サムスンSDSは2024年後半からこのAX路線を非常に強く打ち出してきています。日本ではあまり詳しく報じられていないので、今日は整理してお伝えします。
サムスンSDSとはどんな会社か
まず前提として、サムスンSDSについて簡単に整理します。
サムスンSDSはサムスングループのIT子会社で、主に以下の事業を展開しています。
- ITサービス・SIインテグレーション(グループ内外向け)
- 物流・サプライチェーン管理(Cello Squareプラットフォーム)
- クラウドサービス(Samsung Cloud Platform)
- セキュリティ・データ分析
日本でいうNTTデータや富士通に近い立ち位置ですが、サムスングループという巨大な内需(Samsung Electronics、Samsung Display、Samsung SDIなど)を持っている点が大きな強みです。
2024年の売上は約14兆ウォン(約1兆5,000億円規模)で、そのうちITサービス部門が約7割を占めます。
AX戦略の概要:DXの次のフェーズ
DXからAXへ
2010年代後半から2020年代前半にかけて、企業のIT投資キーワードは「DX(デジタルトランスフォーメーション)」でした。サムスンSDSもこの波に乗り、クラウド移行支援やデータ基盤構築で事業を拡大してきました。
そして2023年のChatGPT普及以降、次のキーワードとして浮上してきたのがAX(AI Transformation)です。
サムスンSDSが定義するAXは、単に「AIツールを導入する」ことではありません。
業務プロセスそのものをAIを前提に再設計すること
これがサムスンSDSのAX定義の核心です。韓国語で表現すると「AI 기반 업무 재설계」、日本語に直訳すると「AIベースの業務再設計」となります。
三つの柱
サムスンSDSのAX戦略は、公式発表や決算資料をもとにまとめると、以下の三本柱で構成されています。
| 柱 | 内容 | 主要プロダクト |
|---|---|---|
| FabriX(ファブリクス) | エンタープライズ向けAIエージェントプラットフォーム | FabriX AI Agent |
| Brity Works | 業務自動化・AIアシスタント統合スイート | Brity Copilot |
| Harness(データ基盤) | AIモデルの学習・推論基盤整備 | Samsung Cloud Platform AI |
この三層構造は「データ基盤 → AIモデル活用 → 業務エージェント化」という流れになっており、技術的には理にかなった積み上げ方をしています。
エンジニア視点で見るFabriXの技術的ポイント
AIエージェントオーケストレーション
FabriXで特に注目しているのが、マルチエージェントオーケストレーションのアーキテクチャです。
複数のAIエージェントが協調して一つのタスクを処理する仕組みで、技術的には以下のような構成が想定されます。
[ユーザーリクエスト]
↓
[オーケストレーターエージェント]
├── [データ取得エージェント](DBアクセス・API連携)
├── [分析エージェント](LLM推論)
└── [アクションエージェント](RPA・業務システム操作)
↓
[レスポンス統合・返答]
この構成はMicrosoftのAutoGenやLangChainのAgentsと概念的に近いですが、サムスンSDSが強調しているのはサムスングループ内の業務システムとの深い統合です。SAP・Oracle・グループ内ERPへのコネクターがあらかじめ用意されている点は、エンタープライズ導入の障壁を下げる意味で重要です。
LLMの調達戦略:マルチモデル対応
FabriXはどのLLMを使っているのか?という点ですが、サムスンSDSはOpenAI、Anthropic、さらには韓国国産LLM(Naver HyperCLOVAXなど)をマルチモデルで切り替えられる設計を採用しています。
これはベンダーロックインを避けるという観点でも、セキュリティ・データローカリゼーションの観点でも、エンタープライズ顧客から見て非常に合理的な選択です。
特に韓国市場では、金融・医療など規制業種でのデータ国内保管要件が厳しいため、韓国産LLMを選択できるオプションは競合優位性になります。
2026年ロードマップ:何を目指しているのか
数値目標
サムスンSDSが公式に言及している方向性として、以下のような数値が韓国メディアで報じられています。
| 指標 | 現状(2024年) | 目標(2026年) |
|---|---|---|
| AX関連売上比率 | 約15〜20% | 40%以上 |
| AI活用業務自動化率(グループ内) | 一部部門で試験導入 | 主要業務の30%以上 |
| FabriXの外部顧客数 | 数十社規模 | 数百社規模 |
※数値は各種韓国メディア報道・決算説明会資料をもとにした推計を含みます
グループ内「実験場」戦略
個人的に面白いと思っているのが、サムスングループの内需を実証実験の場として活用する戦略です。
Samsung Electronicsの製造ラインの品質管理AI、Samsung C&Tの建設現場管理AI、Samsung Fireの保険審査AI——これらをFabriXや自社AIプラットフォームで実際に動かし、成果が出たものをパッケージ化して外部に売るという流れです。
これは韓国語で「레퍼런스 확보 전략(レファレンス確保戦略)」と呼ばれます。「自分たちが使って成果を出した実績をもとに売る」という、SI企業として非常に手堅いアプローチです。
競合との比較:韓国エンタープライズAI市場
サムスンSDSが戦っている市場は、韓国国内だけでなくグローバルも視野に入れています。主な競合を整理します。
| 企業 | 強み | サムスンSDSとの差異 |
|---|---|---|
| LG CNS | LGグループ内需・製造業AI | 同じ財閥系SI。スマート工場に強み |
| SK C&C | SKグループ・通信×AI | 通信インフラとの統合に優位 |
| Accenture Korea | グローバルメソドロジー | 外資系。コンサル力で差別化 |
| Microsoft Azure AI | GPT統合・エコシステム | プラットフォーム側。競合かつパートナー |
サムスンSDSの独自優位性は「サムスングループのスケール感」と「ハードウェア(半導体・デバイス)への深い知見」です。HBM(高帯域幅メモリ)を製造するSamsung Electronicsとの連携でAIインフラ最適化ができる点は、純粋なソフトウェア系SIにはない強みです。
日本市場への示唆
サムスンSDSは日本法人(サムスンSDS Japan)を通じて国内展開も行っています。
日本市場では、製造業向けのサプライチェーンAIや品質管理AIのニーズが高く、韓国での導入実績をそのまま持ち込めるユースケースが多い。特に日韓双方に工場を持つ日系・韓系企業への提案機会は今後増えると見ています。
日本のエンジニアやIT担当者として見た場合、サムスンSDSのAX戦略から学べるポイントは以下の点です。
- 「自社で使う→外販する」というSI企業の製品化モデル
- マルチLLM対応アーキテクチャの設計思想
- グループ内大量データを使ったモデルファインチューニングの優位性
まとめ
サムスンSDSのAX戦略を整理すると、以下のようになります。
- AX = AIを前提とした業務プロセスの再設計であり、単なるAIツール導入ではない
- 三本柱は「FabriX(エージェント)」「Brity Works(自動化)」「データ基盤」
- サムスングループの内需を実証実験の場として活用する「レファレンス確保戦略」が核心
- 2026年にAX関連売上を全体の40%以上に引き上げることが目標ライン
- 日本市場でも製造業・サプライチェーン領域での展開が期待される
韓国の大手IT企業がエンタープライズAIでどう戦っているか、そのアーキテクチャ思想や市場戦略は日本のエンジニアにとっても参考になる点が多いと思っています。引き続き韓国テックメディアを読みながら、アップデートがあればお伝えしていきます。
エンタープライズAI・クラウド基盤に関連した技術書やAIエンジニアリングの参考書も、ぜひ合わせてチェックしてみてください。
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本記事は韓国テックメディア(디지털데일리、ZDNet Korea)、サムスンSDS公式IR資料、および各種報道をもとにした分析・考察です。数値の一部は推計を含みます。

